火災時、建物内に充満する煙は避難の妨げとなり、人命に直結する危険があります。そのため、煙を効率的に排出し安全な通路を確保する防排煙設備の設置が必要となります。
さらに、防排煙設備の設置後は、定期的な消防用設備等の点検や作動確認が不可欠です。
本記事では、防排煙設備の仕組みや役割、消防設備点検の時期・頻度・要領、報告義務について解説します。
防排煙設備は、火災の発生時に煙を効率的に外へ排出し、建物内の安全を確保するために欠かせない消防設備です。
ここでは、防排煙設備の基本的な仕組みと役割を解説します。
防排煙設備は、単に煙を排出するだけでなく、建物内の煙や熱を管理し安全な避難環境を確保するために複数の機器が連動しています。
制御盤は感知器や手動操作と連動して排煙口やファンに信号を送り、自動火災報知設備と組み合わせて迅速に作動する仕組みです。
排煙方式には、自然の空気の流れを利用する自然排煙方式と、ファンで強制的に排出する機械排煙方式の2種類があり、建物の構造や規模に応じて使い分けられます。
排煙ファンとダクトは煙を効率的に外部に排出し、停電時も非常用電源で動作します。
この連動構造により、火災発生時でも安全な避難ルートを維持することが可能です。
防排煙設備は、主に以下の3つの役割があります。
各役割について簡単にお話します。
避難経路の確保
煙が廊下や階段に充満すると視界が遮られ、迅速な避難が難しくなります。防排煙設備は、通路や階段の煙を外部に排出し、避難通路を確保します。
延焼の防止
煙や熱気が建物全体に広がると、他の区画や上層階にまで延焼が及ぶ危険があります。排煙によって火災の拡大を抑える効果が期待できます。
消防活動の支援
煙が排出されることで、消防隊が内部へ進入しやすくなります。視界が確保されるため、消火活動や救助活動の効率が高まります。
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防排煙設備は、火災時に確実に作動することが求められるため、定期的な消防設備点検が義務づけられています。
消防設備点検の時期や頻度を守らなければ、万が一の際に機能せず、避難や消防活動に大きな支障をきたす恐れがあるのです。
ここでは、法律で定められている防排煙設備の点検周期や、報告義務、実際の状況に応じた点検の考え方を解説します。
防排煙設備の点検は、消防法と建築基準法の両方で規定されており、それぞれ点検の対象や頻度が異なります。
消防法で定められた点検の目的は、主に火災時の避難や初期対応を重視し、建築基準法では建物の構造や設備の安全性を長期的に確認することを目的としています。
ここでは、消防法と建築基準法に分けて、それぞれに定められた防排煙設備の点検周期についてお話します。
防排煙設備は、消防法に基づき定期的に点検を行う必要があります。
消防用設備等の点検は大きく「機器点検」と「総合点検」に分かれており、機器点検は半年に1度、総合点検は1年に1度実施することとなっています。
機器点検では、外観や操作性、電源表示灯の状態などを確認し、通常の使用では見落としやすい不具合を早期に発見できるのが特徴です。
総合点検では、排煙口の開放や排煙ファンの起動試験を行い、火災時に設備全体が確実に作動するかを検証することが目的となります。
防排煙設備は、消防法の点検に加えて建築基準法第12条に基づく『定期報告制度』の対象でもあります。
また、排煙方式によって点検の区分と頻度が異なるのが特徴です。
自然排煙設備は「特定建築物定期調査」の対象とされ、3年に1度の検査を受けなければなりません。
一方、機械排煙設備は「建築設備定期検査」の対象となり、年に1度の検査が義務づけられています。
これらは消防法点検とは別に行う必要があり、どちらも確実に実施することが求められます。
建物の規模や設置状況に応じて、両方の点検を計画的に進めると、火災発生時にも確実に防排煙設備が作動し、安全な避難経路を確保できる状態を維持することができます。
防排煙設備の点検後は、結果を正確に記録し、必要に応じて消防署へ報告することが義務づけられています。
防排煙設備の点検で異常や不具合が見つかった場合は、速やかに修繕や工事を行った記録も報告書に盛り込みます。
報告書には点検日や点検者、設備の状態、作動確認の結果などを記載し、将来の点検や火災時の対応に役立てましょう。
報告義務を怠ると法令違反となる可能性があり、火災時の被害が拡大するリスクも高まります。
消防設備点検の実施と報告を徹底することが、安全な設備管理の基本です。
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防排煙設備の消防設備点検は、ただ形だけの確認ではなく、火災時に確実に作動するかどうかを検証することが目的です。
ここでは、消防設備点検の要領と、特に注意すべきチェックポイントを解説します。
防排煙設備の消防設備点検は、計画的に進めることで不具合の見落としを防ぎ、火災時の安全性を確保できます。ここでは一般的な流れをステップごとに解説します。
① 事前打ち合わせ
消防設備点検を実施する前に、建物の管理者や点検業者が打ち合わせを行います。点検対象となる設備の種類(自然排煙・機械排煙)や設置状況、電源の確保方法などを確認します。
② 外観確認
排煙口、ダクト、操作盤などの機器について、損傷・腐食・汚れなどがないかを目視で点検します。
③ 機能試験(機器点検)
操作スイッチや電源表示灯を実際に操作して、作動に異常がないか確認します。電源の断線や接触不良など、見た目では分からない不具合を早期に把握できる重要なステップです。
④ 総合試験
排煙口を開放し、排煙ファンを起動するなど、設備全体を実際に稼働させて確認します。火災時を想定して区画ごとに検証することで、避難経路が確実に確保できるかを判断します。
⑤ 結果の整理と次の対応
消防設備点検結果は記録として残し、必要に応じて修繕・工事を行います。この段階で不具合が見つかった場合には、放置せず速やかに対応することが求められます。
防排煙設備の消防設備点検では、以下のような項目を確認します。
排煙口・給気口
・開閉がスムーズか
・変形や損傷などがないか
制御盤
・電圧計や電流計に変形、損傷などがなく、指示値が正常か
・表示灯が点灯するか
起動装置
・手動操作箱に破損や損傷がないか
・ハンドルとレバーに損傷や脱落などがなく、操作が容易にできるか
排煙機及び給気機
・回転軸の回転がスムーズか
・軸受部の潤滑油に著しい汚れ、変質などがなく、必要量が満たされているか
今回ご紹介したのは点検項目の一部です。ほかの点検要領は、以下のページも確認してください。
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防排煙設備は、火災時に煙を屋外へ排出し、安全な避難経路を確保するための重要な設備です。
防排煙設備の消防設備点検は法律で義務づけられており、半年に1回の機器点検と年1回の総合点検に加え、建築基準法で定められた点検が必要です。
定期的な点検を徹底することで、万が一の火災でも迅速な避難と被害軽減につながります。
東報防災工業株式会社では、火災報知設備や防排煙設備、消火器など、多様な防災機器を取り扱っております。施設の防災対策において、最適な設備選定や設置のご提案も行っております。
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