旅館やホテルでは、多くの人が利用するため、火災や地震などの緊急時に安全に避難できる環境であることが重要です。特に旅館は「防火対象物」に分類されるため、用途や構造に応じた避難器具の設置が必要とされます。
本記事では、旅館に設置すべき避難器具の種類や特徴、設置基準などを詳しく解説します。旅館の利用者の安全を守るため、必要な避難器具を確認しましょう。
旅館業法に基づく営業種別の中で、旅館・ホテル営業や簡易宿所営業の許可を受けた施設は、消防法施行令第15項(イ)に規定される「旅館、ホテル、宿泊所その他これらに類するもの」として分類されます。
そのため、一般的な集合住宅などと比べて、より厳格な消防基準が適用されることになります。
マンションなどの共同住宅では、主に居住者が避難を想定するため、避難器具の設置場所や外に出るための経路を熟知している場合がほとんどです。
一方で、旅館は短期利用者が多く、防火対象物としてのリスクが高くなります。よって、旅館は消防法でマンションなどの建物よりも厳しい設置基準を定めているのです。
参考:総務省消防庁|防火対象物の用途区分表(消防法施行令別表第一) 参考3 1
旅館などの宿泊施設には、基本的に避難器具の設置が必要です。ここでは、旅館などの宿泊施設において避難器具の設置が必要な条件を具体的にお話します。
・2階以上の階もしくは地階で収容30人以上。ただし、下階に劇場やカラオケ店・飲食店・クラブ・公衆浴場・作業所・駐車場などがある場合は10人以上。
・3階以上の階で、避難階または地上に直接通じる経路が2つ以上確保されていない場合、その階に収容できる人数は10人以上。
・設置する避難器具は、100人につき1つ追加する。
これらの条件は、旅館の宿泊客や従業員の安全を確保するために定められています。適切な避難器具の設置と維持管理を徹底し、有事の際に迅速な避難が可能な環境を整えましょう。
旅館やホテルは、多くの人々が利用する建築物であり、火災や地震などの緊急事態に備え、消防法に基づいた適切な避難器具の設置が必要です。本章では、旅館における主要な避難器具の種類や特徴を詳しく解説します。
旅館に設置する避難器具は、以下の7つです。
各避難器具の名称と特徴、設置階について解説します。
避難はしごは、旅館において設置できる避難器具のひとつです。
避難はしごは、旅館の窓やベランダから地上へ安全に避難するための器具です。折りたたみ式で軽量なため、狭いスペースにも設置できます。
主に3階以上の階で、避難経路が不足している場所に設置されます。使用時は固定金具からはしごを展開し、一人ずつ慎重に降りる仕組みです。
設置可能な階
地階・2階・3階・4階・5階・6階以上
旅館に設置される避難器具のひとつに、救助袋もあります。救助袋は、滑り台のような構造で中を通り抜けて地上に避難できる器具です。内部はらせん状になっているものが多く、子どもから高齢者まで幅広い年齢層が使用可能です。
旅館のほかには、地上3階以上の階層や学校などでも設置が推奨されています。袋を窓枠に固定し、一人ずつ袋の中を滑り降ります。
設置可能な階
2階・3階・4階・5階・6階以上
緩降機も、旅館で設置される避難器具のひとつです。緩降機は、ワイヤーと滑車を使ってゆっくりと地上へ降りることができます。スピードが調整できるため、安全性が高いのが特徴です。
複合施設や3階以上の旅館などで使用されます。使用時は、窓枠に装置を取り付け、ハーネスを装着した避難者が一人ずつ降下します。
設置可能な階
2階・3階・4階・5階・6階以上
旅館に設置されることのある避難器具として、避難橋もあります。隣接する建物へ移動できる避難橋は、折りたたみ式や伸縮式があり、広い避難路の確保も可能です。
主に3階以上の旅館や地階の建物で、隣接距離が近い場合に設置されます。緊急時に橋を展開して固定し、避難者が順番に渡ることで安全に脱出します。
設置可能な階
2階・3階・4階・5階・6階以上
非常用滑り台も、旅館に設置されることのある避難器具のひとつです。
非常用滑り台は、多人数が短時間で避難できる滑走路タイプの器具です。主に3階以上の旅館・劇場・百貨店・病院など、収容人員が多い施設で採用されます。特別な技術が不要で、簡単でスムーズに使用できるため、老人ホームや幼稚園などに設置されることが多いです。
設置可能な階
2階・3階・4階・5階・6階以上
避難用タラップも、旅館で設置されることのある避難器具のひとつです。
避難用タラップは金属製の固定はしごで、窓や非常口から直接地上に避難する手段として利用されます。
頑丈な構造で長期間使用に適しており、3階以上の建築物や地階に設置される場合が多いです。避難者が一人ずつ降りることで安全を確保します。
設置可能な階
2階・3階
避難ロープも、旅館で設置されることのある避難器具のひとつです。
避難ロープは、窓や高所から地上に降りる際に使用されるシンプルな器具です。軽量で持ち運びが容易なため、狭いスペースにも設置できます。消防法に基づき、3階以上の旅館や複合施設で補助的な役割として活用されます。
ロープを固定金具に結び、しっかり握って慎重に降りることが求められます。
設置可能な階
2階
※11階以上は、スプリンクラーなどの設備が設置されている場合は、避難器具の設置は免除されます。
旅館では、多くの人が宿泊しており、特に火災時には迅速な避難が求められるため、適切な対策が重要です。
ここでは、旅館において特に留意したい避難のポイントをご紹介します。
旅館での避難のポイントは、以下の3つです。
各ポイントを簡単に解説します。
階段や避難橋は、旅館における避難時の重要な経路です。避難経路は、火災や災害時に安全に外部へ避難できるよう、複数ルートを確保することが推奨されます。
また、避難経路には障害物がなく、誘導灯などの案内表示が明確に設置されていることが重要です。特に、複合施設や病院、劇場を併設する旅館では、経路設計に一層の注意が必要です。
避難器具は設置するだけでなく、日常的な点検が必要です。救助袋や避難はしごなどは、定期的に動作確認を行い、万一に備えましょう。
避難器具の適切な管理は、旅館の防災対策を行う上で不可欠です。
さらに、器具の使用方法をわかりやすく案内し、宿泊客が緊急時にスムーズに活用できるよう配慮しましょう。
旅館では、定期的に避難訓練を実施することも重要です。
旅館の従業員が避難経路や器具の使い方を確実に理解することで、災害時の混乱を最小限に抑えられます。
訓練を通じて、非常時に従業員が落ち着いて適切に対応できる体制を整え、安全な避難環境を確保することが大切です。
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本記事では、旅館において設置が必要な避難器具の種類や特徴、設置基準などについてお話しました。
旅館やホテルなどの宿泊施設における防災対策は、宿泊者の安全を守る重要なものです。
必要な避難器具を設置し、旅館の利用者の命を守れるよう、万が一の緊急事態に備えましょう。
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