災害時には、迅速かつ安全に避難できなければなりません。建物の性質によっては、よりスムーズに避難できるような対策が重要です。具体的には、誰でも簡単に使用できる「一動作式避難器具」の設置が求められるケースがあります。
本記事では、一動作式避難器具の仕組みや種類、設置基準、注意点について詳しく解説します。
一動作式避難器具とは、緊急時に避難のための準備や、操作が一つの動作で完了する避難器具のことを指します。
本章では、一動作で使用できる避難器具の特徴と、一般的な避難器具との違いについて解説します。
一動作式避難器具の最大の特徴は、避難時の準備や操作が一つの動作で完了する点にあります。
消防法によると、この一動作とは開口部を開ける動作や、保安装置を解除する動作は除くものと定められています。
一動作式避難器具は、「レバーを引く」「はしごを展張する」といったシンプルな操作だけで、すぐに避難を開始できる仕組みです。
マンションや事務所といった特定の人が出入りする建物よりも、不特定多数の人が利用する施設に設置されるのが一般的です。
通常の避難器具は、使用するまでに二動作以上の手順が必要になるものが多く、緊急時に素早く展開できないケースがあります。
例えば、ロープ式の避難器具は、避難者が自分でロープを調整しながら降下する必要があり、慣れていないと時間がかかる場合があります。
一方、一動作式避難器具は一つの動作で使用可能となるため、迅速な避難へとつながるのです。
一動作式避難器具は、主に以下の2種類が一般的です。
ここでは、代表的な一動作式避難器具の特徴について解説します。
避難はしごは、ベランダや窓から避難する際に使用される器具です。避難はしごには、折りたたみ式や収納式のものもありますが、一動作式のはしごは固定式に限定されます。
固定式の避難はしごは、あらかじめ建物の外壁に設置されることが多く、常に使用できる状態になっているのが特徴です。
はしごを展開するなどの動作が不要のため、緊急時でも素早く避難を開始できます。
緩降機とは、体にベルトを巻きつけて、ロープで下に降りるタイプの避難器具です。一見、避難ロープと同じように思われますが、緩降機には降りるスピードを調整する「調速機」がついているのが大きな違いです。
緩降機を使用する際は、緩降機のアームを展開し、本体のリールを下ろします。アームの展開は、消防法の「保安装置の解除」に該当するため一動作で使用できます。
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一動作式避難器具は、迅速な避難を可能にするために設置される重要な設備です。しかし、すべての建物に設置が必要なわけではありません。
本章では、一動作式避難器具の設置基準について解説します。
一動作式避難器具の設置基準は、以下のような条件となっています。
この2つの条件に当てはまる場合、一動作式避難器具の設置を検討する必要があります。それぞれの条件について、さらに分かりやすく解説します。
特定一階段とは、建物内の主要な避難経路が一つの階段に限られる構造を指します。特に、地下または3階以上の建物でこの条件に当てはまる場合、火災時の避難が困難になるため、厳しい防火対策が求められます。
また、防火対象物とは、消防法で火災予防の対策が必要とされる建物や施設のことです。
具体的には、飲食店・病院・商業施設など、不特定多数の人が利用する建築物が該当します。
避難上有効なバルコニーがない、もしくは常に容易かつ確実に使用できる状態の避難器具が設置されていないことも、一動作式避難器具の設置基準の一つです。
そもそも、避難上有効なバルコニーとは、バルコニーが外気に開放されているもの、一定の広さ(2 ㎡以上)があるものなどが当てはまります。
また、常時、容易かつ確実に使用できる状態で設置されている避難器具とは、固定式の避難はしごや組み立てられた状態の緩降機などです。これらの避難器具がない場合も、一動作式避難器具の設置条件の一つとなります。
一動作式避難器具は、シンプルな操作で迅速に避難できる利便性がある一方で、適切に管理・使用しなければ本来の機能を十分に発揮できません。
本章では、避難器具の安全性を確保するために、設置・使用・管理の各段階で注意すべき点を解説します。
一動作式避難器具は、正しい位置にしっかりと固定されていないと、使用時に誤作動を起こす可能性があります。
特に、避難はしごの場合は、固定部分が緩んでいたり、設置角度が適切でなかったりすると、安全に使用できない可能性があります。
設置時には、消防法や建築基準法に基づいた適切な固定が求められるため、専門業者に依頼しましょう。
緊急時には冷静に行動するのが難しく、初めて使用する器具では操作に戸惑うこともあります。そのため、施設の管理者やスタッフがあらかじめ避難器具の使用方法を確認するのも重要です。
一動作式とはいえ、どの方向に引くのか、どの位置から展開するのかといった、基本的な情報を把握しておくことで、いざという時に素早く避難できます。
避難器具の周囲に物を置いてしまうと、いざという時に器具が展開できず、避難が遅れる原因となります。
特に、バルコニーや窓際に設置された避難はしごやハッチの周辺は、日常的に整理整頓を心掛けましょう。
定期的に避難経路のチェックを行い、常に避難経路を確保しておくことが重要です。
一動作式避難器具は、長期間使用しないまま放置されると、劣化や故障の原因になります。特に、屋外に設置される一動作式避難器具は、金属部分の腐食やサビができやすいです。
消防法では6カ月ごとの機器点検と1年ごとの総合点検が義務付けられており、点検結果を消防署へ報告する必要があります。日頃から定期的に点検を行い、異常があれば速やかに修理・交換することが大切です。
一動作式避難器具は、迅速かつ簡単に使用できる避難手段として、多くの建物に設置されています。適切な設置基準に従い、固定や配置を正しく行うことで、確実な避難を可能にします。
さらに、定期的な点検や避難経路の確保を怠らず、いざという時に安全に使用できる状態を維持することが必要です。
日頃から避難器具の管理を徹底し、万が一の火災や災害時に備えましょう。
東報防災工業株式会社では、火災報知設備や防排煙設備、消火器など、多様な防災機器を取り扱っております。施設の防災対策において、最適な設備選定や設置のご提案も行っております。
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